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アンジェラの灰 (上) (新潮文庫)

アンジェラの灰 (上) (新潮文庫)

アイルランドの貧しい家族の生活.あまりにも貧し過ぎて、もう笑うしかないという本の背表紙のキャッチコピーには、何度もうなずいてしまうほど、すさまじい貧乏生活が描かれている.本作の作者であり且つ主人公であるフランク・マコートの表現力には関心する.特に、主人公の年齢に合わせた文章表現がすばらしい.例えば幼少の頃のエピソードにはわざと幼稚な表現を使うところや、子供の視線での不思議な疑問や思考など、「ああそういえば子供のころはこんな風に両親を見て感じていたかもしれない」と思わせる表現が随所に散りばめてある.悲惨な時代を生きた家族の物語ではることは間違いないのだが、なぜか本作品を読むと心がしっとりする.この作品と同時並行でよんでいるロスチャイルドの歴史ノンフィクションの作品と比べると、この時代、即ち19世紀から20世紀にかけて大英帝国が日の沈まぬ帝国として各植民地の富を我が物としていた時代に、その植民地政策の真の犠牲者としてその末端で貧困の真っ只中に投げ出された家族がこのような生活をしていたのだという、もう一つの世界を教えてくれる.

魂 (新潮文庫)

魂 (新潮文庫)

柳美里のベストセラー命の第二部.第二部は、著者の同居人である東由多日のガン闘病記.本作品はベストセラーになるほどで、多分、作品の内容に共感する読者も多いのだろうけど、自分はあまり共感できない.第一部のときの感想と同じように、やっぱりこの著者はあまえていると思うし、ガンを患う東もまたあまえているのだと感じる.東は、ホスピスという選択については全否定をし、最後の1パーセントの可能性まで追求してガンの治療を挑戦しつづけると言いつつ、医者が提案する下剤の使用すら、はずかしいのだろうかかなくなに否定する.また、肺ガンが深刻な状況なのにタバコをやめようともしない.このような姿勢には疑問を感じざるを得ない.結局、著者も東も現実を直視することが出来ていないのではないだろうか.ガンの遺伝子治療を、小泉潤一郎に直接お願いしようとする著者自身の考えにも不快感を感じた.本作品を読むと、ガンに対して日頃からケアを怠ってはいけないと考えさせられる.ところで、本作品の中における、著者と母親のFAXを介した会話には考えさせられるものがある.二人の間にある溝は計り知れないものがあるのだろう.しかしなお、やはり母子なのだと感じる会話が幾つかあった.