わたしを離さないで

わたしを離さないで

日本人のイギリス文学作家.たしかに、作品全体に漂う雰囲気は日本人の作品とは思えない.こんな作品もあるのだな、というのが最初の印象.舞台設定や時代背景は、章を追うごとに徐々に明かされていく.だから、読んでいていつしか作品の中に飲み込まれていってしまうような錯覚を覚える.イギリスのどんよりした曇り空や、見渡す限りの草原の風景などを想像しながら読んだ.
非常に悲しい物語だったと思う.キャッシーとルーシーは、これでもかっていうほど傷つけ合うのだけど結局最後は親友に戻る.それはルーシーの命の最後まで続くのだが、人ってそんなにお互いを許せるものなのかなって思った.現実の世界はもっといがみ合って仲たがい、というケースが多いような気がする.そして、キャッシーとトミーの愛ははかない、とてもはかない.それぞれの登場人物は、自分が提供者になる運命を正面から受け止め、それでいて淡々と生活する.その姿勢に非常に強い印象を受けるのだが、この二人も自分達の運命を冷静に受け止める.冷静には受け入れているのだが、ルーシーの遺言は実行しようとする.いや実行する.それが待ち受ける結末もはかないのだが、もし、彼らが3年間の猶予を得ることができたならば、彼らはどう生活するのだろうか.そして、彼らの3年が存在したとして、それに比しても恥じない3年間というものを、私は自分の人生の中で過ごすことができるだろうか.ふと、そんなことを考えてしまう作品である.