エレンディラ (ちくま文庫)

エレンディラ (ちくま文庫)

G.ガルシア=マルケスの独特の世界観が広がる短編集.彼独特の世界観であり、その雰囲気に慣れていないと、初めかなりの違和感を覚える.そして、しばらくして、その世界観に慣れてくるのだか、幻想的な描写は日本人にとっては突拍子も無い物語の連続に思える.ある意味、日本人であるが故の常識みたいなものを突き破って頭を柔軟にして想像力を働かせなければいけない.それでも、マルケスが何を表現しているのかを推し量るのは難しい.これは、欧米諸国の搾取に悲鳴を上げる南アメリカ諸国の物語なのだろうか.

以下は、各物語の要約.

「大きな翼のある、ひどく歳取った男」
住まいは海の近い町なのだろう、寝室に蟹が舞い込んできてそれを退治することに忙しい夫婦が、羽の生えた老人を捕獲する.そんな、いきなり天使が登場してしまう世界.第一話から突拍子もない物語なので、マルケスの世界感に慣れるのにちょっと時間がかかるかもしれない.

「失われた時の海」
海からバラの香りが漂ってくるというお話.

「この世界でいちばん美しい水死体」
海岸で水死体が揚がるが、それが美男子の水死体である.村の女性陣はその水死体のあまりの美男子ぶりに騒ぎ出す.しまいには隣村の女性達までがその水死体を見に来る始末.

「愛の彼方の変わることのなき死」
死の宣告を受けた上院議員、その上院議員に偽のパスポートを発行してもらいたいお尋ねモノ、そしてその娘の物語.

「幽霊船の最後の航海」

「奇跡の行商人、善人のブラカマン」
職を転々とする行商人ブラカマンと、彼に従事する主人公の話.主人公はブラカマンに残酷に取り扱われいつしか復讐を心に誓う.

「無垢なエレンディラと無常な祖母の信じがたい悲惨の物語」
エレンディラは祖母と二人暮し.祖母の身の回りをケアし、朝から晩まで疲れ果てて精も根も尽き果てるまで働く.そして、ある日、エレンディラに不幸がやってくる.あまりの過労に、彼女は夜着替える気力が無くなるままベッドに倒れるように眠る.開けっ放しにしていた窓からは不幸の風が舞い込み、部屋を灯す蝋燭の炎を...彼女と祖母は自宅や家具などの全財産を失う.その不幸の責任をエレンディラ一人に押し付けた後の祖母の態度が酷過ぎる.エレンディレは祖母への償いの為、娼婦としての労働を強制される、しかも実の祖母にである.正にタイトルどおり”信じがたい”物語なのである.マルケスはこのような物語で何を伝えたかったのだろうか.やはり、南アメリカの過酷な状況なのだろうか.祖母の最後はとても不幸な終わり方だと思うが、彼女の流す血の色、それは人間の血の色ではないと思える.そして最後、エレンディラは走り去り祖母の束縛から逃れるのだが、はたして彼女は幸せになれたのであろうか.