アンチキリスト―悪に魅せられた人類の二千年史

アンチキリスト―悪に魅せられた人類の二千年史

アンチキリストというタイトルに惑わされてはいけない.キリスト教を信じない人を意味するのではない.12使徒がキリストの教えを説いて殉教したそのころから、キリスト教における黙示録的な発想は存在していた.それは、古くはヨハネの黙示録あたりにも見受けられる.キリストの再来に会わせて、その双対的な存在として考えられた存在、それがアンチキリストである.それは善なるものに対する双対的な存在としての悪である.双対的な存在を考える発想が面白い.(バナッハ空間の双対空間のように数学の世界でも双対という概念がある.)さらに面白いのは、このアンチキリストを実在の個人(例えばローマ皇帝暴君ネロなど)として見る時代や、不特定多数の対象(宗派など、例えばローマ・カトリック協会や皇教)として見る時代など、その時代の歴史を反映している点である.本書のように、アンチキリストに焦点を当てると、おのずとそれは東西ヨーロッパの歴史となるが、このようにロケーションを固定して歴史の流れを把握すると、世界史をことなる視点から把握することができ、大変勉強になる.例えば、カノッサの屈辱が、ローマカトリック教会教皇と東西ヨーロッパを支配する皇帝との歴史的な対立の頂点に位置する事件であるということなど.