青の時代 (新潮文庫)

青の時代 (新潮文庫)

ホームページ「無限回廊」で紹介されていた、興味をそそる事件、光クラブ.その主犯格の人間をモデルにした三島由紀夫作品があるという.もう読みたくて、読みたくてうずうずしていた.でも、光クラブの事件性から、自分の精神状態に余裕のある時でなければ作品に集中して読むことは不可能と思い、読書のタイミングを見計らっていた.しかしながら、三島由紀夫作品を読む為には、精神的余裕だけでなく、作品に対する集中と根気が必要だ.この作品を読むことにより、それをまざまざと思い知らされた.作品全体にある難解な言い回しや表現、主人公である川崎誠と周辺の人物との間の複雑な会話は、そのすべてを理解するのに相当の労力を必要とする.それでも、これらの難解な表現を「かっこいい」と思ってしまうのは、自分自身の中の知への”低俗な”憧れがさせるのであろうか.光クラブのような事件を発生される人間の生い立ちとは、いったいどのようなものだったのだろうか?光クラブの事件を知れば、そして彼が付けていた日記(時間記)の概要を知れば、誰もがそう思うかもしれない.なるほど、彼(犯人)は、幼少の頃から秀才の名をほしいままにしていたようだ.(モデル小説とはいえ、すべてが事実と思うのは愚ではあろうが.)しかしながら、彼の思考は、時に面白いほど幼稚で滑稽なときがある.これらの思考は、三島の創造によるところが大きいではあろうが、捻くれた思考は、時に厄介なものかもしれない.それにしても、彼らの会話の内容は、時にとても抽象的であり、時にとても概念的であり、およそ常人のそれとは思えない.この世に、本当にこのような会話を交わす人たちが存在するのであろうか.本作品では、主人公が警察に捕まる以降の話は述べられていないが、最後の耀子の行動には驚ろかされる.