ハンニバル・ライジング 下巻 (新潮文庫)

ハンニバル・ライジング 下巻 (新潮文庫)

T.ハリスの作品、すなわちハンニバル・レクターの関連する作品の魅力の一つは、その西洋文化の描写だと思う.例えば、作品「ハンニバル」では、レクターがイタリアで披露する厖大な知識に魅了される.著者が西洋人だから、キリスト教をはじめとする西洋文化に精通しているのは納得できるし、おのずと作品の”リアリティ”も高くなると思う.(たしか、「ハンニバル」におけるフィレンツェの寺院の描写に関して、それっぽい”うそ”もあったはず.一般人には入場不可の建物への侵入が描写されていたり.)
ただ、それが日本の文化を対象とすると、おのずとT.ハリスの知識の限界がどうしても出てきてしまうのではないだろうか.本作品を批判するつもりはないが、日本文化(東洋文化)の妖艶さとフランス(ヨーロッパ)という舞台の相乗効果をねらっているようにも思える点が、逆に空回りしている.短歌を引用したハンニバルと紫夫人の会話もどこか薄っぺらいような感想を持った.