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ゾルゲ事件 上申書 (岩波現代文庫)

この上申書から、本当に尾崎が転向したのかどうかを判断するのは困難だ．本書からそのような疑問点を解明することを試みるより、むしろ、当時における、彼の時代の流れを読む力に注目することが興味深いと思える．
彼の転向に関する記述については、ちょっと読んでいて気持ち悪くなる．あまり興味深い資料とは思えない．
一方、太平洋戦争の行方に関する彼の洞察力は、その後の実際の大戦の経緯とそれほどかけ離れているとは思えない．時間的な読み違いはあるものの、基本的なシナリオは彼の予言したとおりなのではないだろうか．
また、彼の中国に対する知識は当時の中日関係を知る上で非常に参考になると思う．現在のような反日感情はけっして現代における特異な現象なのではなく、日中戦争の昔から存在する感情なのだということを我々は歴史的客観的事実と照らし合わせて認識する必要がある．